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国外転出時の課税に伴う二重課税調整

⑴ 制度の趣旨及び概要

 例えば、ある国において国外転出の際に未実 現のキャピタルゲインに課税され、国外転出先 の国においても後にキャピタルゲインが実現し た際に更に課税された場合には、同一のキャピ タルゲインに対して国外転出元の国と国外転出 先の国との間で二重課税が生じることとなりま す。

 このような国外転出時の課税に伴う二重課税 の調整については、昨年 9 月、「BEPS(Base Erosion and Proit Shifting:税源浸食と利益 移転)プロジェクト」の成果物の一つとして公 表 さ れ た「 行 動 計 画 6 : 条 約 の 濫 用 防 止

(Action6: Preventing the Granting of Treaty Beneits in Inappropriate Circumstances)」と 題する報告書の結論や、国際的な二重課税調整

は最終的には居住地国で行うとの国際課税の基 本的な考え方を踏まえれば、原則として、実際 に二重課税が生じる時点の居住地国である国外 転出先の国(=新しい居住地国)において行う ことが適当です。

(参考) 前述の「BEPSプロジェクト」の報告書に おいて、国外転出時の課税に伴う二重課税 については、原則として、所得(未実現利 益を含みます。)が生じた時点の居住地国に 当該所得に対する課税権があるとの考え方 に基づき、両国の権限のある当局間の合意 に基づいて解決すべき旨の記載がされてい ます。

 そこで、今般、わが国において国外転出をす る場合の譲渡所得等の特例が創設されたことを 踏まえ、わが国への転入者(=わが国の居住 者)が国外転出元の国で国外転出時に未実現の キャピタルゲインに課税されていた場合には、

わが国におけるその者の譲渡所得等の金額の計 算上、当該国外転出元の国で課税された資産の 取得価額をステップアップすることにより、国 外転出元の国における国外転出時の課税に伴う 二重課税を調整することとされました(所法60 の 4 ①②)。

(注) 上記の国外転出時の課税に伴う二重課税調 整に併せて、わが国への転入者が国外転出元 の国で国外転出時に未実現のキャピタルロス を認識されていた場合には、国際的な二重非 課税に対応する観点から、わが国におけるそ の者の譲渡所得等の金額の計算上、当該国外 転出元の国で課税された資産の取得価額をス テップダウンすることとされています(所法 60の 4 ①②)。

 また、今般の国外転出をする場合の譲渡所得 等の特例の創設に当たり、その適用を受けた居 住者で納税猶予を受けているものがその適用対

象となった有価証券等を譲渡した場合において、

国外転出先の国が国外転出をする場合の譲渡所 得等の特例による課税に伴う二重課税を調整し ない国であるときは、国外転出をする場合の譲

渡所得等の特例により課された所得税から国外 転出先の国で課された外国所得税を控除するこ とにより、わが国において二重課税を調整する ことができることとされました(所法95の 2 ①)。

⑵ 制度の内容

① 外国転出時課税の規定の適用を受けた場合 の譲渡所得等の特例

イ 二重課税調整の方法

イ 外国転出時課税の規定の適用を受けた 有価証券等を譲渡した場合

 居住者が外国転出時課税の規定の適用 を受けた有価証券等の譲渡をした場合に おける事業所得の金額、譲渡所得の金額 又は雑所得の金額の計算については、そ の外国転出時課税の規定により課される 外国所得税(外国税額控除(所法95①)

国外転出時の課税に伴う二重課税調整(イメージ)

ただし、日本においても、二重課税調整を可能とする 日本において二重課税を調整

二重課税調整 ステップアップ

(100)

ただし、日本においても、二重課税調整を可能とする

≪外国から日本に入国した場合≫ 日本

日本 外国

外国 入国

出国 外国転出時課税の規定の適用

(100)含み益

(100)含み益 国外転出時課税の規定の適用

キャピタルゲイン

(100)

キャピタルゲイン

(100)

ステップアップ

(100)

株式等の取得時

100 出国時

200 譲渡時

300

株式等の取得時

100 出国時

200 譲渡時

300 二重課税調整 日本において二重課税を調整

≪日本から外国へ出国した場合≫

原則、外国において二重課税を調整

の対象となる外国所得税をいいます。イ 及びロにおいて同じです。)の額の計算 において当該有価証券等の譲渡をしたも のとみなして当該譲渡に係る所得の金額 の計算上収入金額に算入することとされ た金額をもって、当該有価証券等の取得 に要した金額とすることとされました

(所法60の 4 ①)。

(注 1 ) 「有価証券等」とは、所得税法第 2 条第 1 項第17号に規定する有価証券 又は同法第174条第 9 号に規定する匿 名組合契約の出資の持分をいいます

(所法60の 2 ①)。なお、「有価証券 等」の範囲の詳細については、前掲 の「所得税法等(国外転出時の特例 の創設)の改正」の「二 制度の内 容」の「1 国外転出をする場合の 譲渡所得等の特例」の「⑴ 有価証 券等に対する課税」の「③ 有価証 券等の範囲」を参照してください。

(注 2 ) 外国転出時課税の規定の適用を受 けた後に行われる「譲渡」の範囲に は、有価証券等の一般的な譲渡のほ かに、株式等につき法人の合併・分 割型分割、資本の払戻し、残余財産 の分配、出資の消却、法人からの退 社・脱退等の事由が生じたことによ りその株式等の譲渡の対価とみなさ れる金額が生ずる場合(措法37の10

③④、37の11④)におけるこれらの 事由によるその株式等のその譲渡の 対価の額とみなされる金額に対応す る部分の権利の移転又は消滅も含ま れます(所法60の 2 ④)。

ロ 外国転出時課税の規定の適用を受けた 未決済信用取引等又は未決済デリバティ ブ取引を決済した場合

 居住者が外国転出時課税の規定の適用 を受けた未決済信用取引等又は未決済デ リバティブ取引の決済をした場合におけ

る事業所得の金額又は雑所得の金額の計 算については、当該決済によって生じた 利益の額若しくは損失の額(ロにおいて

「決済損益額」といいます。)からその外 国転出時課税の規定により課される外国 所得税の額の計算において当該未決済信 用取引等若しくは未決済デリバティブ取 引の決済をしたものとみなして算出され た利益の額に相当する金額を減算し、又 は当該決済損益額に当該外国所得税の額 の計算において当該決済をしたものとみ なして算出された損失の額に相当する金 額を加算することとされました(所法60 の 4 ②)。

(注 1 ) 「未決済信用取引等」とは、未決済 の次の取引をいいます(所法60の 2

②、所規37の 2 ①)。

ⅰ 金融商品取引法第156条の24第 1 項に規定する信用取引

ⅱ 金融商品取引法第161条の 2 に 規定する取引及びその保証金に関 する内閣府令第 1 条第 2 項に規定 する発行日取引

(注 2 ) 「未決済デリバティブ取引」とは、

未決済の金融商品取引法第 2 条第20 項に規定するデリバティブ取引をい います(所法60の 2 ③)。

ロ 外国転出時課税の規定の意義

 「外国転出時課税の規定」とは、外国に おける次に掲げる事由が生じた場合に国外 転出をする場合の譲渡所得等の特例の規定

(所法60の 2 ①~③)に相当する当該外国 の法令の規定によりその有している有価証 券等又は契約を締結している未決済信用取 引等若しくは未決済デリバティブ取引の譲 渡又は決済があったものとみなして外国所 得税を課することとされている場合におけ る当該外国の法令の規定をいいます(所法 60の 4 ③、所令170の 3 ②)。

イ 国外転出に相当する事由

ロ 国籍その他これに類するものを有しな いこととなること。

ハ 租税条約上の双方居住者の振分けルー ルによりいずれか一方の締約国の居住者 とみなされることとなること。具体的に は、外国が締結した所得に対する租税に 関する二重課税防止のための条約(いわ ゆる租税条約)の規定により当該条約の 締約国又は締約者のうち一方の締約国又 は締約者において国外転出をする場合の 譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の 特例(所法95の 2 ①)の対象となる外国 所得税を課される者でないものとみなさ れることとなることとされています。

(注 1 ) 「国外転出」とは、国内に住所及び 居所を有しないこととなることをい います(所法60の 2 ①)。

(注 2 ) 国外転出をする場合の譲渡所得等 の特例に係る外国税額控除の特例の 対象となる外国所得税の意義につい ては、下記②ニを参照してください。

ハ 外国転出時課税の規定により有価証券等 の譲渡に係る収入金額に算入することとさ れた金額等の円換算方法

 上記イイ及びロのとおり、外国転出時課 税の規定の適用を受けた場合に生じる二重 課税については、その外国転出時課税の規 定により外国所得税の額の計算において有 価証券等の譲渡に係る所得の金額の計算上 収入金額に算入することとされた金額等を 基礎として、わが国における所得計算上調 整することとされていますが、この基礎と なる金額は、通常、外国通貨で表示されて いるものと考えられます。

 そこで、当該金額の円換算額は、外国転 出時課税の規定が適用される要件とされる 国外転出に相当する事由等が生じた時にお ける外国為替の売買相場により換算した金 額とすることとされました。具体的には、

上記イイ又はロの適用がある場合には、上

記イイの収入金額に算入することとされた 金額及び上記イロの利益の額に相当する金 額又は損失の額に相当する金額の円換算額 は、上記ロイからハまでに掲げる事由が生 じた時における外国為替の売買相場により 換算した金額とすることとされています

(所令170の 3 ①)。

(注) 「円換算額」とは、外国通貨で表示され た金額を本邦通貨表示の金額に換算した 金額をいいます(所法57の 3 ①)。

② 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に 係る外国税額控除の特例

イ 二重課税調整の方法

  個 人 が、 納 税 の 猶 予( 所 法137の 2 ①

②)に係る期限までに、当該国外転出の時 から引き続き有している有価証券等又は決 済していない未決済信用取引等若しくは未 決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若 しくは決済又は限定相続等による移転をし た場合において、当該譲渡若しくは決済又 は限定相続等による移転により生ずる所得 に係る外国所得税を納付することとなると きは、当該外国所得税の額のうち当該有価 証券等又は未決済信用取引等若しくは未決 済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若し くは決済又は限定相続等による移転により 生ずる所得に対応する部分の金額として計 算した金額は、その者が当該国外転出の日 の属する年において納付することとなるも のとみなして、外国税額控除(所法95)を 適用することとされました。なお、本特例 は、外国所得税に関する法令において、当 該外国所得税の額の計算に当たって国外転 出をする場合の譲渡所得等の特例の規定の 適用を受けたことを考慮しないものとされ ている場合にのみ適用することとされてい ます(所法95の 2 ①)。

(注 1 ) 納税の猶予(所法137の 2 )の詳細に ついては、前掲の「所得税法等(国外 転出時の特例の創設)の改正」の「二